Short Story

第8話 超能力

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「先生、今日は取材にご協力いただきありがとうございます。早速ですが、あなたがお持ちだと噂の超能力について、その詳細を教えていただけませんか?」
「私を先生と呼ぶのはやめなさい。せいぜい大学卒業の学位しか持たない一般人だ。それに、私は自分の能力についてやたらと周囲に吹聴するつもりはない」
「それはなぜでしょう?」
「自分の能力を世間に誇示して派手な生き方をしようとは思わない。私は普通の人間として静かに暮らしたいのだ。第一、超能力といっても、私の持つそれは全く大したものではないし、その効力も非常に限定的だ。大抵の場合は勘違いか物忘れで済まされてしまう、その程度の微細な影響しか及ぼさない」
「そうはおっしゃいますが、特にあなたの周囲の人間から見れば、あなたがどんな得体の知れない能力を持っているのか分からないのは不安です。それによって自分たちが何か悪い事態に巻き込まれるのでは、と思っている人も少なからずいるようです」
「周囲に自分の能力を吹聴しないのと同様、自分の能力をむやみに使うようなことも私はしない。たとえ小さな能力であっても、トラブルの元になり得ることは自覚している」
「先ほどは大した影響がないといいながら、一方で今はトラブルを避けるために能力を使用しないとおっしゃる。矛盾していませんか?」
「それは詭弁だ。自動車だって普通に運転している分には便利な道具だが、一歩間違えれば危険な凶器と化すだろう?どんなものでも、使いようによってその性質を変化させるものだ。そして私は自分の能力が周囲に害を与えないようにするすべを熟知している。それだけのことだ」
「あなたは自分の能力の仔細を把握しているから、そのように悠然と構えていられる。しかし私たちからしてみれば、あなたがその手のひらの中に隠しているものがハムスターなのか爆弾なのかは分からないのです。それが否応なく不安を煽るのです。あなたが望むトラブルの回避のためにも、あなたは何らかの形で自分の能力を公表する義務があると思います。せめて、今日こうして訪れた私にだけでも聞かせていただけませんか?」
「相変わらず熱心だな。よろしい、君には話そう。私の能力を使用すると、対象となる人物の、現在から最も近接した短時間の記憶を消去できる。簡単に言えば、ごく近い過去を忘れさせる、ただそれだけの能力だ。一日を超えるような長い時間の記憶の消去は出来ないし、意図的に古い過去の記憶を選んで消すこともできない。実益もなく、融通も利かない力だよ」
「そうでしたか…どうにかして、その能力を立証することができるでしょうか?」
「うむ。あの部屋の隅のテーブルを見たまえ。ビデオカメラが回っている。君がこの家にやって来た時、最初に設置したものだ。実は今日、君が一連の質問をするのは既に三回目だ。家に帰ってビデオを確認しなさい。君自身の記憶が、私の能力の証明になるだろう」