Short Story

第22話 来世の夢

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木漏れ日にゆらゆらとまどろんでいるような、
少しの苦しさも滲むことのない、
そんな、穏やかな顔だった。
まるで、ほんの少し居眠りをしているだけのような。
今にも細い目をすっと開けて、あくびをしながら起き上がってきそうな。
そんな、表情で。

目の前に横たわる祖父の、もうその目が二度と開かないということ、
その口が二度と動かないということが、俄に信じられなかった。

まぶたに下にしっとりと溜まった涙が、心臓の鼓動に合わせて波紋を描き、
目に映る世界が緩やかに膨張し、収縮して、揺らめいて。
ちょうど、祖父の肩口にかけられた布団が、
寝息を立てて動いているように、感じられたことが、
いっそう、そんな疑問をかき立てていった。

でも、祖父は亡くなったのだ。
今日、この日、この場所で。
全ての準備を整えて。伝えるべき遺言まで、きちんと残して。
誰一人として、迷惑をかけることなく。
哀しいほどに潔く、旅立ってしまったのだ。
実業家の祖父らしい見事な最後だったと、そう思えてならない。
あと半日待ってくれれば、孫達が一同に揃って祖父の元を訪れたというのに、
それも待ちきれずに早々に逝ってしまう、
そんなせっかちな姿すら、いかにも祖父らしかった。
数え切れないほど多くの人が、慌ただしく訪れては去っていく。
僕は、そんなモノトーンの風景を、弛緩した姿勢のまま、眺めていた。
「生まれ変わっても、どうかお幸せに」と、
誰かが涙ぐみながらそう呟いた言葉を、聞くともなく、聞いていた。

その夜、夢を見た。
祖父と祖母が連れ立ち歩く姿だった。
派手好きの祖父は、とびきりのお洒落をして。
古風な祖母は、そんな祖父に苦笑まじりの小言を言いながら。
光の粒が立ちこめる白々とした景色の中を二人、笑顔で歩いていた。
ゆっくり目を開けて、僕は気付いた。
ああ、これが、祖父の来世なのか。
僕らの心一つ一つに刻まれ、浮かび上がった、祖父の存在が。
幸せなことだろう、と、素直に思った。
きっと今朝、僕以外にも、
昨夜訪れた多くの人たちが、祖父の姿をその記憶に浮かべていただろう。
祖父の来世の1ピース1ピースを、つくってくれていただろう。

多くの人を愛した祖父に相応しい、
この上なく素敵な未来を得たことが、嬉しかった。
涙が頬を伝う。
けれども、もう、その涙は痛くはなかった。