Short Story

第26話 ノイズ・リダクション

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「先生、おはようございます。あの、ちょっとお時間をいただけますか?」
「やあ、どうした佐久間君?何か面白い研究成果でも出たのかい?」
「そうなんです!実はすごい装置を開発しました。名付けてノイズ・リダクションシステムです!」
「ノイズ・リダクション?映像や音声なんかの雑音成分を除去するあれかい?」
「いえ、考え方はほぼ同様なんですが、今回の開発成果は映像や音声が対象なわけではないんです。使用した対象者の人生にとって不必要なノイズを除去してしまうという、画期的な装置なんですよ」
「何だって?君、いくら何でもそんなものはできっこないだろう!」
「本当なんです!既に試作機を製作して何人かに被験者になってもらい、効果を検証してみました。浮気性の友人に使用した際には、携帯電話のメモリーが一瞬にして消去されましたし、浪費癖のある友人の時には銀行口座の預金が綺麗に消えてなくなったんです!二人ともその後は、心を入れ替えて真面目に生活しています。これは前代未聞の発明ですよ!」
「まさかそんな…信じられない…一体どのような原理なのかね?」
「はあ…それが…ちょっとよく思い出せないんです」
「思い出せない?どういうことだい?」
「昨晩、私自身も被験者になって装置の性能を確認しようとした気がするんですが…どうもその後の記憶が曖昧で。それ以降ちょっと頭がぼんやりしてしまっている感じで」
「…」
「でも、少しだけ時間をください。しっかりとデータを整理して、研究論文として取りまとめた上で改めて先生にご報告させていただきますので」
「いや、その作業は必要ない。このテーマは君に向いてないようだ。別の研究テーマを考えなさい。未練が残ってもいけないから、試作機は私が預かっておくことにしよう」
「えぇ、どうしてですか?もう完成目前なのに」
「いいから私の言う通りにしなさい。君の研究者としての優秀さは十分承知している。だから多分、そうした方が良いのだろう」

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